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公募研究項目A04:こころの時間の「病理・病態」
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ヒト記憶における主観的時間の形成の基盤となる脳内機構とその障害機序の解明
- 研究代表者
- 月浦 崇京都大学 大学院人間・環境学研究科 准教授
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私たちは体験した出来事の記憶を思い出す際に,たとえ昔のことであると理解していても,その出来事をまるで昨日のことのように感じることがある.このような経験的事実は,記憶における主観的な時間感覚は客観的な時間の経過とは必ずしも一致しないことを示唆している.そして,脳損傷後に観察される健忘症例の中には,「作話」と呼ばれる症状が認められることがあるが,その原因のひとつとして記憶における主観的時間感覚と客観的時間の「ずれ」を適切に調整できないことが示唆される.本研究では,記憶における主観的時間感覚がどのように形成され,どのように客観的時間との間で調整されるのかの神経基盤とその障害機序について,健常者を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)法と脳損傷患者を対象とした神経心理学的方法の複合的アプローチから検証する.
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精神疾患と脳損傷からみた「心の未来性」に関する認知神経メカニズムの解明
- 研究代表者
- 梅田 聡慶應義塾大学 文学部 教授
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- 連携研究者
- 寺澤 悠理慶應義塾大学文学部 助教
これまで,未来の予定の記憶である展望記憶に関する認知神経科学研究,および時間感覚に関する行動研究とその神経基盤を探る研究を実施してきた.これらの研究を進める上で気づいた点は,「未来の予定をなぜタイミングよく想起できるのか」という問いに対しては,記憶の側面のみに焦点を当てていても答えが得られないということである.なぜならば,ある予定がタイミングよく想起される際には,実はいつもとは異なる身体反応が起きており,それが想起を促進しているからである.時間に関するさまざまな認知処理について調べる際には,こうした身体感覚を生じさせるメカニズムを十分に考慮する必要がある.そこで本研究では,「心の未来性」のメカニズムを「心・脳・身体」という三者関係のダイナミクスの中で捉える枠組みを重視し,身体機能である自律神経活動に焦点を当て,不安障害やうつ病などの未来性思考が関わる精神症状のメカニズム解明を目指す.
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同期障害の神経心理学的検討
- 研究代表者
- 緑川 晶中央大学 文学部 教授
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本研究では、環境や他者と自身とのあいだで生じる同期の障害を通じて、時間とヒトとの関わりの中で自己がどのように規定され認識されるかを明らかにすることを目的とし(図中★印)、この研究を遂行するために、マクロレベルから、ミクロレベルまでの研究を実施する予定である。マクロレベルでは、ペーシング障害が認められる脳腫瘍患者等を対象に、患者の術前・術後の行動変化と内観聴取、および自己認識の実験から検討を進め(同期の障害①:ペーシング障害)、一方で、前頭側頭型認知症や発達障害の患者を対象に、時刻表的行動の指標化とその要因を解析し、自己認識との関連を明らかにする(同期の障害②:時刻表的行動)。また、ミクロレベルでは、脳梁に損傷や病変が認められる患者において、タッピング課題を通じて、同期の障害における主観的現在について検討する(同期の障害③:主観的現在の障害)。
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統合失調症における主観的「現在」の時間幅とその可塑性の検討
- 研究代表者
- 嶋田 総太郎明治大学 理工学部 教授
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- 連携研究者
- 宮本 聖也聖マリアンナ医科大学 医学部 准教授
- 連携研究者
- 山口 登聖マリアンナ医科大学 医学部 教授
- 連携研究者
- 三宅 誕実聖マリアンナ医科大学 医学部 講師
本研究では、自己身体認識における視触覚統合メカニズムに着目し、主観的な「現在」の幅がどのような可塑性を持つかを認知神経科学的に検討する。特に統合失調症などの精神疾患の病態と主観的「現在」の幅の関係について検証し、その治療的応用を模索する。ラバーハンド錯覚は、偽物の手(ラバーハンド)と自分の手に「同時に」触覚刺激を与え続けることによって、ラバーハンドが自分の手であるかのように感じられる錯覚である。本研究では、視覚フィードバックに遅延を挿入した環境でのラバーハンド錯覚実験を通じて、健常者および統合失調症における主観的「現在」の時間幅を明らかにし、このときの頭頂葉の活動を近赤外分光装置(NIRS)を用いて計測する。また経頭蓋直流電気刺激装置(tDCS)を用いて、頭頂葉を刺激することによって主観的「現在」の幅をリキャリブレートすることが可能かどうかについても検討を行う。
公募研究項目B01:言語学・哲学から見た「こころの時間」
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自己意識における時間性
- 研究代表者
- 信原 幸弘東京大学 大学院総合文化研究科 教授
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- 連携研究者
- 中山 康雄大阪大学 人間科学研究科 教授
- 連携研究者
- 伊佐敷 隆弘日本大学 経済学部 教授
「心のなかの自己(=自己意識)」と「心のなかの時間(=時間経験)」とが、どのような本質的な結びつきを持っているのかを哲学的に解明する。特に、脳内の時間表現に関する神経科学的知見を統合しうるような自己の哲学理論を発展させ、それを通じて「自己」の根源的な時間性を明らかにする。そのために以下の二つの下位目標を設ける。 第1に、自己意識の時間的二元性を明らかにする。現在という時間の経験によって成立する現象的自己と、過去から未来への時間展望的な経験によって成立する物語的自己、この二種類として自己意識を理論化したうえで、それぞれを脳内の時間表現に対応させる。 第2に、自己の根本的な一側面である自己制御の時間性を解明する。自己制御を現象的自己と物語的自己の統合として理論化し、その本質的な時間性を明らかにする。
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意思決定の言語・文化的影響:時間割引に関する検討
- 研究代表者
- 石井 敬子神戸大学 大学院人文学研究科 准教授
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- 連携研究者
- 高橋 泰城北海道大学 大学院文学研究科 准教授
人は現在の利益と未来の利益との間では非常に近視眼的な時間選好をしやすく、未来の効用をつい割り引いてしまう。本研究では、このような時間割引の現象に注目し、1) 言語構造・文法、2) 住居の流動性・固定性による影響について検討する。1) に関しては、未来表現と現在表現の区別の有無と1人称の数といった言語の特徴に注目し、未来・現在表現の区別がない言語、および1人称の数が複数あり、行為を理解する際にプロセスに注目しやすいような言語において時間割引の程度が小さいと予測する。2) に関しては、住居の固定性が顕著な社会・地域において時間割引の程度が小さいと予測する。一般的に時間割引の個人差は単なるアノマリーやバイアスと見なされ、そうした個人差を生みだす社会・文化による影響は軽視されてきた。本研究の知見は、時間認識の社会・文化依存性を通じて、それを軽視した人間モデルの妥当性を問い、改良していく上で貢献するだろう。
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現在・過去・未来の時制認識における可能性様相の働きの言語哲学的分析
- 研究代表者
- 青山 拓央京都大学 人間・環境学研究科 准教授
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- 連携研究者
- 宮崎 真山口大学 時間学研究所 教授
- 連携研究者
- 右田 裕規山口大学 時間学研究所 講師
- 連携研究者
- 清水 将吾東京大学 共生のための国際哲学研究センター 特任助教
われわれ人間はしばしば、可能性の樹形図によって時間を表現する。過去から未来に向かって枝が分岐していく樹形図によって、である。この樹形図のどの点を見ても、過去の可能的歴史は一通りだが、未来の可能的歴史は複数在る。すなわち、現在・過去・未来についての時制認識は、可能性の様相に強く結びついている。本研究では、可能性様相と時制との概念的関係を詳細に分析し、さらに、自由・責任・幸福といった日常概念のネットワークの探求を行なう。これらの日常概念の機能は、可能性の樹形図の力を借りて、部分的に再構成することができる。本研究の中心的な目的は、時制をもたない(時間対称的な)物理的世界に心理的/言語的な時制が付与されるメカニズムの一端を解き明かすことであり、とくに、反事実的可能性(現実化していない可能性)に関する人間の認識についての考察が、この目的にとっては重要となる。
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言語操作による脳波計測実験を通した事象時刻と基準時刻の脳内地図構築
- 研究代表者
- 時本 真吾目白大学 外国語学部 教授
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- 連携研究者
- 時本 楠緒子尚美学園大学 総合政策学部 非常勤講師
何らかの形で過去についての記憶を持たない、また、未来についての予測をしない動物は無いと考えられるが、ヒトには、現在とは異なる時刻の出来事を他個体に音声で伝達し,また,現在とは異なる時刻に自身の立場を置いて発話する特徴がある。本研究は、言語刺激の操作によって、出来事の時刻(事象時刻)と立場の時刻(基準時刻)を要因とした脳波計測実験を行い、両時刻の脳内表現を考察する。 (1)に示すように,前半の文で事象時刻を「過去・現在・未来」のいずれかに設定し,後半で事象時刻を指示する指示詞を変化させ,基準時刻を「事象時刻(この日)・発話時刻(その日)・その中間(あの日)」に操作する。 (1) {昨日は/今日は/明日は}息子の入学式{だった/だ/だ}。{この/その/あの}日を,私は待ち望んで{いた/いた/いる}。 2要因に対応する神経活動によって,両時刻の脳内表現を記述できると考えている。
公募研究項目C01:「動物の時間」と「こころの時間」
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未来を予期するこころの進化:チンパンジー集団を対象としたトークン使用の社会実験
- 研究代表者
- 友永 雅己京都大学霊長類研究所 准教授
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- 連携研究者
- 川上 文人京都大学霊長類研究所/日本学術振興会 研究員
本研究では、1 群のチンパンジーに食物などと交換が可能な「トークン」(代用貨幣)を導入するとともに、さまざまなトークン使用場面を設定することによって、チンパンジーの多様なトークン使用⾏動を引き出し、そこでみられる、トークンを使用する場所へ運搬する際に発揮される「こころの空間」にかかわる能⼒、そして、将来に備えてトークンを蓄えることを可能にする「こころの時間」にかかわる能⼒の検証を通じて、彼らの未来予測能⼒を「社会実験」として検討していく。一個体をベースにしたトークン実験に始まり、集団へのトークン導入の際に見られる自発的な行動の詳細な観察、あるいは積極的に「貯蓄」行動を訓練することによる、未来を予期した行動の創発や社会的交渉の変容について検討を加えていく。
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過去と未来を想うこころの発生
- 研究代表者
- 藤田 和生京都大学 文学研究科 教授
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- 連携研究者
- 黒島 妃香京都大学 文学研究科 特定研究員
現在の環境刺激から離れ、こころの中に過去や未来を描く働きは、ヒトだけが持つ特権なのだろうか。本課題では、これを多様な系統の動物で比較検討することを通じて明らかにする。この心的機能は自身のこころの中にしか存在しない自身の体験や将来計画を自身の中に描く再帰的過程であり、こころの内省的機能の1つととらえられる。この心的機能に関して、国外ではエピソード記憶を標的に「いつ」「何が」「どこで」という情報の統合的記憶としての側面が検討されているが、偶発的記憶としての側面は、検討が不十分である。また「未来を想うこころ」に関する検討は少数種で散発的にしかおこなわれていない。本研究では、「過去を想うこころ」として、一度だけ生起した事象の記憶の生起による行動調節と、「未来を想うこころ」として、将来の利益を見越した準備的行動調節の可能性を、ヒト幼児、サル、齧歯類、鳥類、及びイヌを対象におこない比較する。
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ラットとマウスを用いた時間認知の発達メカニズムに関する比較心理学的検討
- 研究代表者
- 坂田 省吾広島大学 総合科学研究科 教授
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本研究は,ヒトを含めた動物に共通している時間認知を検討する。秒から分単位の時間知覚研究は,時間に関する比較心理学研究において重要なものである。動物におけるオペラント条件づけの時間弁別課題では,間隔二等分課題やピーク法がよく用いられる。インターバルタイミングと呼ばれる短い時間認知は持続時間の知覚や処理能力を調べるものである。ラットとマウスを用いて数秒から数十秒のインターバルタイミングにおける発達メカニズムの比較心理学的な検討に焦点をあてる。 得られた成果は国内・海外の学会で積極的に発表公表する他,学会誌で特集号を組むことも考えている。海外の学会としては平成26年9月にコロンビアの首都ボゴタで開催される国際比較心理学会において,重要な情報交換の場としてラットとマウスにおける時間認知の国際シンポジウムの開催を予定している。
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時間割引から探るこころの時間~異種間比較の枠組構築
- 研究代表者
- 酒井 裕玉川大学 脳科学研究所 教授
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動物は遅れて得られる報酬よりすぐに得られる報酬を好む。これは遅延報酬の価値を主観的に割り引いているからであると考えられている。この割引の時間的特性は、遅延期間中にただ連続的に時間が経過するときには双曲型で、試行をまたいで離散的に時間ステップが進むときには指数型になることが示唆されている。脳内に連続的な時間と離散的な時間が存在し、役割の異なる割引を行っているのではないだろうか。遅延報酬に対する選好の時間特性は多種の動物で観測されており、同一の比較基準で脳内時間に関わる特性を比較するための土台として有用と考えられる。 本研究課題では、これらの時間割引特性と整合するように既存の強化学習理論を拡張し、多種間で連続時間と離散時間に対する時間割引の特性を比較する行動実験課題を構築する。また、領域内の共同研究に発展することを目指すとともに、異なる時間割引をもつ意義を探る。
公募研究項目D01:こころの時間の神経基盤とその応用
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昆虫における時間感覚の神経機構の解明
- 研究代表者
- 小川 宏人北海道大学 大学院 理学研究院 准教授
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昆虫は時間を認識できるのだろうか?彼らは,独自に進化した脳構造を持ちながら,高度な社会性行動,空間学習や刺激の同一性認識など,ほ乳類に匹敵するほどの高次脳機能を備えている。例えば,ミツバチは餌場の情報を巣内の仲間に伝達する際,8の字ダンス中の羽音の持続時間で餌場までの距離を表現していると考えられている。しかし,生得的な行動に直接関与しない刺激について,昆虫がその時間情報を認識できるかについては,ほとんど分かっていない。そこで本研究では,コオロギに聴覚刺激を用いた二つの行動課題,すなわち①異なる持続時間を持つトーン音の弁別課題,②周期的な短いパルス音の欠落(オドボール)の検出課題を行って,コオロギが聴覚刺激に含まれる時間情報を認識できるかを調べる。さらに,課題遂行中に刺激の持続時間や刺激の欠落をコードする神経活動を記録・解析し,昆虫の感覚刺激の「時間情報」を認知する神経機構を明らかにする。
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長期報酬記憶を制御するフィードバック神経回路
- 研究代表者
- 谷本 拓東北大学 生命科学研究科 教授
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動物にとっての過去の時間とは脳内に蓄積された記憶である。記憶は形成されてからの時間により大別して短期記憶、長期記憶に分類される。ショウジョウバエの嗅覚報酬学習では、特定の匂いと砂糖報酬を同時提示する訓練を行うが、一回の訓練で反復を必要とせず長期記憶が形成される。記憶の動的メカニズムに関する研究は近年で飛躍的に発展したが、一度の訓練で形成される記憶の長期の時間遷移については不明な点が多い。 多くの動物の脳で報酬はドーパミン作動性神経によって伝達される。我々の予備的な結果より、ハエの報酬を伝達するPAM細胞群の中に長期記憶と短期記憶を独立して誘導する、機能の異なる2つの小細胞群があることが明らかとなった。本研究では、長期記憶を誘導するドーパミン神経と、その投射先で入力を受けドーパミン神経の樹状突起に出力する神経細胞により形成されるフィードバック回路について、その機能と構造を明らかにする。
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脳内セロトニンが時間の体験に与える影響の解明
- 研究代表者
- 水挽 貴至筑波大学 医学医療系 助教
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- 連携研究者
- 設楽 宗孝筑波大学 医学医療系 教授
健常な人の認知には楽観的なバイアスがかかっているが、抑うつ的な人は現実的に事象を捕えることができる。これはdepressive realismとよばれ、時間検討課題を使った実験などで示されている。 数理モデルによる行動解析では、脳内セロトニン濃度が低いほど報酬の時間割引が増加しているように見えるが、これは脳内セロトニン濃度が低下し衝動性が高まっているうつ病者の臨床像と合致する。 一見相反するこれらの説を包括する次の仮説を提唱する。1. 脳内セロトニン濃度が低下すると時間検討能力は正確になる。2. 楽観的な健常人と異なり、遠い将来の報酬を遠い将来の報酬であると正しく認識し、あまり好まなくなる。3. その結果数理モデル上では時間割引が増大したように見える。 本研究は上記の仮説に基づき、薬理学的、行動学的手法を組み合わせ、サルの時間検討能力に与えるセロトニンの影響の解明に取り組む。
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言語処理に基づくこころの時間の計数可視化インタフェースの開発
- 研究代表者
- 大武 美保子千葉大学 大学院工学研究科人工システム科学専攻 准教授
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米国の精神科医バトラーは,高齢期の自伝的回想が,自我の統合を促し,うつ病の治療や症状の緩和といった効果が期待できることを指摘した.以降,積極的な回想を促す回想法の研究と実践が,世界各地で行われてきた.近年,肯定的な過去と未来をバランスよく見渡すことを好む人は,幸福感,健康,自尊心が高いことが明らかにされた.この結果は,主観評価により得られたものである.実際,健常高齢者同士の会話を観測してみると,遠い過去を頻繁に話題にする人もいれば、過去から未来までダイナミックに話題が変化する人もいる.しかし,会話における発言の内容からこころの時間を推定する手法は,システム化されていなかった.そこで本研究では,自然な会話における発言に含まれる時間情報を計数,可視化することで,こころの時間を計測評価するインタフェースを開発する.
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記憶形成における過去、現在、未来の神経活動のダイナミクス
- 研究代表者
- 野村 洋東京大学 大学院薬学系研究科 助教
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脳は自発的に活動を持続させる。我々は、こうした自発的な脳の活動が記憶形成に重要であると考える。ある時点で観察される“現在の活動”は、“過去の自発的な活動”と外部刺激の演算によって決定される。そして、回路構造の変化を介して“未来の活動”が規定され、記憶形成、想起が正しく行われると考えられる。本研究では、こうした観点から以下の検討を行う。(1)学習中および直後に神経活動依存的な遺伝子発現が誘導される。しかし、学習から長い時間が経過した後、外部刺激を受けなくても再び特徴的な遺伝子発現が誘導される。この自発的な遺伝子発現が神経回路の再編成やその後の行動に与える影響を調べる。(2)自発活動と外部刺激に対する応答との関係を調べる。学習前、学習中のニューロンの発火活動を測定し、記憶形成に関わる過去、現在、未来の神経活動の関係を明らかにする。
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知覚の時間的連続性を支える脳情報処理:新錯視を用いた心理物理学的分析
- 研究代表者
- 本吉 勇東京大学 大学院総合文化研究科 准教授
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- 連携研究者
- 佐藤 隆夫東京大学 大学院人文社会系研究科 教授
私たちの知覚世界は時間的に連続している.網膜に映る映像は瞬きや視線の変化によって頻繁に遮断されるにも関わらず,私たちは目の前の光景が途切れているようには感じない.感覚刺激の様々な属性は脳のなかでバラバラのタイミングで処理されるのに,私たちはそれらを数百ミリ秒の幅をもつ「知覚的現在」のなかにまとめ,一つの安定したオブジェクトあるいはイベントとして知覚する.さらに,この知覚的現在の幅を超える長い事象を観察しているときにも,私たちはそこに滑らかに連続した変化や動きを知覚する.本研究では,こうした知覚の時間的連続性を支える情報処理の原理を,滑らかに動いているはずの対象が飛び飛びに見えてしまう「離散運動錯視」をはじめとする様々な新錯視を駆使した心理物理学実験により明らかにすることをめざす.
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時間差を緩衝する神経機構:後部帯状回の回路構築と時間弁別行動
- 研究代表者
- 岡ノ谷 一夫東京大学 大学院総合文化研究科 教授
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- 連携研究者
- 黒谷 亨東京大学 大学院総合文化研究科 特任研究員
本研究課題の目的は、生起時間の異なる2つの事象を連合学習するような神経構造を提案することである。後部帯状皮質の広くに分布する錐体細胞層には、形態学的特徴(樹状突起束)および発火的特徴(遅延発火性:LS 細胞)を備えた特徴的な細胞群が存在する。本申請課題ではラットを用いた実験により、これらのLS 細胞群が有する「遅延性」が、1)どのような時間回路を構成し(細胞・回路レベル)、2)どのような時間処理課題に寄与するか(行動レベル)、について解明する。現在までの申請者らの研究により、LS 細胞を内在する後部帯状皮質内の機能的回路網が徐々に明らかとなりつつある。これまで、LS 細胞群には、視床前核からの感覚入力と海馬体からの想起情報との間に生じる時間差を緩衝する可能性を示すことができた。また、LS 細胞には単独で秒単位の時間を保持する性質が存在し、今後はこれらの実験をさらに推し進める形で、LS 細胞の「遅延性」が後部帯状皮質内の回路においてどのような時間処理を可能とするかを検証したい。また、時間変数を含んだ行動課題を用いることで、LS 細胞破壊による影響や、課題中のLS 細胞から活動を記録し、行動レベルにおけるLS細胞の役割を明らかにしたい。既に基本的な破壊法および記録法の準備は整っているが、今後は複数領域からの同時記録やLS 細胞の機能的モジュール解明を可能にする実験系へと拡張することで、具体的な時間課題を用いた研究へと進める予定である。これらの研究成果に関しては、国内外における学会・シンポジウムで積極的に発信すると同時に、時間処理における神経メカニズム解明という点において、ヒトを含む他の時間学研究への貢献を図りたい。
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細胞集団活動の遷移による時間経過表現のモデル研究
- 研究代表者
- 山崎 匡電気通信大学 大学院情報理工学研究科 助教
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本研究は、申請者がこれまで構築してきた小脳モデルの中核である、抑制性の再帰ネットワークによる細胞集団の発火パターンの遷移を利用した時間経過表現の神経メカニズムに焦点をあて、精緻な運動制御に必要な数十ミリ秒から一秒未満のタイミング制御を担っている小脳と、数十秒程度までの時間認知を担っていると考えられている大脳基底核のモデルを構築し、それらがどのように協調あるいは役割分担して長時間の時間認知を精度良く実現しているのかを理論的に検討する。
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コミュニケーションの時間窓を決定する周期的脳活動
- 研究代表者
- 水原 啓暁京都大学 情報学研究科 講師
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- 連携研究者
- 北城 圭一理化学研究所 脳科学総合研究センター 副チームリーダー
周期的脳活動の一つである脳波の神経振動子協調が,脳内の動的な神経ネットワーク形成を実現していることが指摘されている.この神経振動子協調は,脳内の情報伝達のみに留まらず,脳と脳の間の情報伝達,つまりコミュニケーションにおいても重要な戦略であるとして,近年,注目を集め始めている.例えば音声コミュニケーションにおいては,話者の発話のリズムと,音声聴取中の聞き手の脳内の神経振動子が位相協調することが報告されている.さらに,音提示前の脳波位相によって聴取成績が変化することも示されており,この脳波位相が話者の音声発話タイミングの予測に関与しているものと考えられる.つまり,音声コミュニケーションにおいて適切な時間窓を実現する脳内メカニズムが,神経振動子の音声提示前後における位相協調であると考えられる.本研究では,ヒトを対象とした脳波計測,および脳波と機能的MRI の同時計測によりこの仮説を検証する.
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物語における時間情報に基づく視点取得メカニズム
- 研究代表者
- 米田 英嗣京都大学 白眉センター 特定准教授
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物語を読む際、物語に記述されている時間情報を正しく理解する必要がある。自閉症スペクトラム障害 (Autism Spectrum Disorder; ASD)をもつ人は、他者視点の取得に困難をもつとされるが、他者視点取得を測定する誤信念課題が困難な理由の一つとして、他者と時間情報を共有することの難しさがある。ASD者による時間情報処理の困難さを示す重要な症例として、タイムスリップ現象と呼ばれる、昔の出来事を予期せず鮮明に思い出す症状があり (杉山, 2000)、ASD者における出来事の時空間的統合の不全の例と考えられる。 登場人物の視点取得メカニズムを解明するために、第一に、物語における時空間情報の理解、第二に、時間と感情の相互作用、第三に、知能が正常であるにもかかわらず、時間的展望をもつことや他者感情の推測に困難をもつ自閉症スペクトラム障害者を対象に、fMRI (functional Magnetic Resonance Imaging、機能的核磁気共鳴画像法)を用いた検討を行う。
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こころの中の「いま、この瞬間」をとらえる―主観的同時性を形成する脳の仕組みの探究
- 研究代表者
- 宮崎 真静岡大学 情報学部 教授
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- 連携研究者
- 関口 浩文上武大学 ビジネス情報学部 准教授
- 連携研究者
- 竹内 成生上武大学 ビジネス情報学部 准教授
- 連携研究者
- 河内山 隆紀株式会社国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 研究員
- 連携研究者
- 門田 宏高知工科大学 総合研究所 准教授
- 連携研究者
- 山田 祐樹九州大学 基幹教育院 准教授
- 連携研究者
- 木村 岳裕高知工科大学 総合研究所 助教
- 連携研究者
- 黒田 剛志静岡大学 情報学部 学振特別研究員PD
―いま,この瞬間をとらえる.― 我々は,この言葉に静止画として切り取られる一コマを思い浮かべる.北澤 (2013) は,"こころの現在" として,Postdictionと呼ばれる知覚遡及効果が生じる0.1-0.5秒という時間域に焦点を当てた.その時間域の知覚機序の探究に貢献してきた有力なプローブタスクの一つが時間順序判断であった.当然,そこには順序が生じる.順序を特定したとき,そこには過去 (あるいは,相対的に未来) が生じる. "こころの現在" の時間幅は,文脈に応じて多様な拡がりを持つが,本研究は,そこに先後関係を含有しない"主観的同時性" に焦点を更に絞り込む.この研究では,心理物理学的手法と神経生理学的測定 (e.g., fMRI, EEG, TMS) を用いて,主観的同時性と関連/因果関係を持つ脳部位・ネットワーク・脳活動動態を特定することを目指す.
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時間の実験美学:美と魅力が時間の感じ方に与える影響とその要因の解明
- 研究代表者
- 川畑 秀明慶應義塾大学 文学部 准教授
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絵画や写真は情景のなかに刻々と流れる一瞬を切り取った表現である一方,それらの表現が時間の感じ方に影響を与えることがある。楽しい時間は短く感じられ退屈な時間は長く感じられるように,情動や快は時間の感じ方に影響することはこれまで知られてきたが,芸術作品に感じる美や魅力がどのように時間の感じ方に影響を与えるかについてはよく分かっていない。しかし,近年,対象に感じる美や魅力の認知が時間知覚を変化させたり,その後の注意過程に影響を与えたりすることが示唆されている。本課題では,実験美学的手法により,刺激に対する美や魅力の評価が感じられる時間にどのように影響するかについて検討することで,作品を鑑賞するのに要する心理的時間と,芸術作品に固有の内在的時間の特徴を明らかにする。
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近未来行動を表現するセルアセンブリ逐次活動の形成メカニズム
- 研究代表者
- 藤澤 茂義理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー
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近年、げっ歯類の海馬において、時間や近い将来の行動に依存的に発火する細胞(時間細胞・エピソード細胞)の存在が報告されている。また、海馬のみならず、前頭前皮質でも同様に、近い将来の行動を予測できるニューロンの発火活動が観測される。このようなエピソード細胞や時間細胞の重要な特徴は、①外部入力刺激に依存していない内的生成された活動である、という点と、②順序の再現性の高い(発火する順序の定まっている)ニューロン群(セルアセンブリ)の逐次活動である、という点である。つまり、ネットワークにより内的生成されたセルアセンブリの逐次活動によって時間性や近未来行動が表象されていると言える。いかにしてこのようなセルアセンブリの逐次活動が形成されるのか、そのネットワークメカニズムを知ることが本研究の目的である。
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時間と空間の共感覚と脳内分子メカニズム
- 研究代表者
- 山田 真希子放射線医学総合研究所 分子神経イメージング研究プログラム サブリーダー
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時間と空間はこころの中で重複して形成されている。これは「メンタルタイムライン」と呼ばれる、時間感覚と空間感覚の共感覚現象である。例えば、「前向きな考え」といったメタファーが「未来への希望や期待」を意味するように、言語概念が時空間を含んでいる事実は、時間と空間の共感覚が、我々の認知スタイルや行動選択に直接影響を与えている可能性を示唆している。本研究では、1)行動実験により、メンタルタイムラインが認知機能に与える影響(認知バイアス)を明らかにし、2)fMRIとPETイメージングの融合解析により、メンタルタイムラインを形成する分子・神経メカニズム解明を目指す。その成果は、こころの時空間体験(知覚)と思考システム(概念などの非知覚的意識)との密接な関係についての新たな神経科学的視点をもたらすことが期待できる。
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睡眠中に過去を再構成させる「こころの過去」の神経基盤の解明
- 研究代表者
- 阿部 十也福島県立医科大学 脳疾患センター 講師
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脳は、今この時に起きている事象を忠実に映し出すのではなく、入力情報をもとに「現在」を解釈し作り上げているらしい。一方で、ある特定の文脈の中で起こった複数のイベントを包括的に解釈した上で記憶の再構成を行い、「過去」を作りあげている可能性がある。本研究は、睡眠中に記憶を再構成する「こころの過去」の神経基盤に注目する。 最近の知見から、個別に記憶されたものが睡眠中に関係性をもたせることが示唆されている。睡眠は記憶を再生(リプレイ)して、記憶を修正する場を提供する。研究代表者は、睡眠中に個々の記憶に関係する脳活動が同期してリプレイすることで、これらが関係性を持ち、記憶が再構成されるとの仮説に基づき、睡眠中の同期活動と記憶の関係付けとの関連性を明らかにする。
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物体視覚情報の時間的統合を支える神経メカニズムの解明
- 研究代表者
- 林 隆介産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 システム脳科学研究グループ 主任研究員
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我々の視覚システムは、ある時刻における知覚内容を時間的に後から生じた事象からも修飾を受けて変化させることにより、神経伝達に伴う情報処理の時間遅れを補償し、絶えず変化する外界に知覚内容を適応させていることが、心理物理学的知見から示唆されている。しかし、こうした視覚情報の時間的統合を支える神経基盤は未だ明らかではない。本研究では、主観的「現在」を作り出す遡及的情報統合の神経メカニズムを明らかにすべく、物体視処理に関わる腹側視覚経路のさまざまな脳領域にマイクロ電極アレイを埋め込み、神経活動を多点同時記録することを予定している。そして、ある物体から 別の物体に変化する映像を提示した際、脳内の視覚表象がどのように時間発展しながら階層的な情報処理経路を伝搬するのか、機械学習に基づく神経信号復号化手法を使って解析することをめざす。
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主観的同時性と時間順序を実現する神経基盤の解明
- 研究代表者
- 山本 慎也独立行政法人産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 主任研究員
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我々が外界を認識するとき、「どこで」「何が」起こったのかという情報とともに、「いつ」起こったのかという時間情報の処理が必要である。2つの感覚信号が、数百ミリ秒程度の小さな時間差で生じた場合、それら二つが同時かどうかという「主観的同時性」と、どちらが先かという「主観的時間順序」が生じるが、これらがどのようなメカニズムで計算されているのかは、未知の問題である。本研究課題では、これらの時間知覚やその変化・適応が、どのような神経基盤で実現されているのか、解明を目指す。
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伝導遅延時差による身体上距離符号化仮説‐ 時間が身体像をつくるメカニズム
- 研究代表者
- 羽倉 信宏脳情報通信融合研究センターCiNet 研究員
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私たちは外界を見ることによってだけでなく、触ることによっても認識する。皮膚から触覚刺激が伝える信号が脳に到達するまでの時間(伝導遅延)は各身体部位から脳までの距離によって異なる。例えば手首と肘が同時に触られた場合、肘の情報の方が脳には先に到達する。この身体に規定される時間差情報は、外界の空間情報を類推するうえで有用な情報源となりうるが、これまでの触覚における空間認知研究は、主に物体との皮膚接触面から直接的に入力される空間情報のみを情報の対象としてきた。本研究では、脳が伝導遅延差をも触覚空間認知に利用しているという仮説、「伝導遅延時差による身体上距離符号化仮説」を、心理物理的、電気生理的手法をもって検証することを目的とする。これはすなわち、時間情報が身体空間情報を作りだすメカニズムの解明を目指す研究である。
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記憶に時を刻む海馬新生ニューロン
- 研究代表者
- 大原 慎也東北大学大学院生命科学研究科 助教
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我々は異なる過去の出来事が同時期に起きたものなのか、または別の時期のものなのかを記憶している。このような時間情報の記憶に、海馬歯状回(DG)の新生ニューロンが関わっている可能性が考えられている。海馬新生ニューロンは成熟顆粒細胞と比較して興奮しやすく、長期増強を起こしやすい特徴を持つ。上記仮説はこのような新生ニューロンの特性を基にして提唱された仮説であるが、新生ニューロンが実際に記憶の時間的関連性をコードしているかどうかについては明らかにされていない。研究代表者はこれまで、シナプスを介して感染伝播する狂犬病ウイルスベクターを用いた標的神経回路選択的な遺伝子導入法の開発を行ってきた。本研究では、この遺伝子導入法を光遺伝学、電気生理学、及び行動学的手法と組み合わせて用いることで、時間情報の記憶における新生ニューロンの機能を明らかにすることを目指す。
班友
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行動タイミングを計る大脳皮質-基底核マルチニューロン活動
- 研究代表者
- 礒村 宜和玉川大学 脳科学研究所 教授
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- 連携研究者
- 酒井 裕玉川大学 脳科学研究所 教授
これまで研究代表者と連携研究者は、前肢でレバーを操作するオペラント学習課題にマルチニューロン記録法や傍細胞(ジャクスタセルラー)記録法を組み合わせて、ラットの自発性運動の発現を担う大脳皮質(一次運動野など)と大脳基底核(線条体)の回路機構に関する行動・生理学的研究を推進してきた。しかしながら、大脳皮質や基底核の領域内・領域間回路がどのように運動指令を生成し、行動タイミングを計るのかについては、いまだに大きな謎に包まれている。そこで本研究では、ラットが自発性運動を発現するために自ら行動タイミングを計る大脳皮質と基底核の多領域間回路の情報伝達を、独自の行動・生理学的手法と光遺伝学的手法を駆使して解明し、ヒトや動物の「こころの時間」の神経基盤に迫ることを目指す。
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メンタルタイムトラベルの脳情報基盤の解明
- 研究代表者
- 神谷 之康ATR脳情報研究所 神経情報学研究室 室長
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われわれは「今」「ここ」を離れて、過去の出来事を思い出したり未来のことを考えたりすることができる。このような想起は、「意識の流れ」をかたちづくるものであり、「こころの時間」を構成する重要な要素である。近年、過去と未来の想起を「メンタルタイムトラベル」という共通の枠組み理解しようとする理論が提案されており、脳イメージング研究においても、 過去と未来の想起に共通の神経基盤が存在することが示唆されている。しかし、過去や未来の 想起の「内容」がどのように脳内で表現されているかは未解明である。本課題では、脳情報デコーディング技術を利用して、過去および未来についての想起中の脳活動と現在の知覚や想像に関連する脳活動を比較し、時相間での脳情報表現の共通性と差異を明らかにする。この研究を通して、「現在」に制約され ないヒトの高次認知機能の神経基盤の理解を目指す。
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- 研究代表者
- 西田眞也日本電信電話株式会社 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ 上席特別研究員 グループリーダー